優しい光で彼は目を開けた。習慣のいつものチェック。
名前、場所、時間…
しかしすぐに中断してまた目を閉じた。見覚えのある天井を認め、これは夢に違いないと思ったからだ。
ふわりと鼻をくすぐる美味しそうな臭い。小さく聞こえる料理をする音。
覚めるのが惜しかった。このままずっとまどろんでいたい。ここは一年近く追い続け、狂おしいほどに取り戻したかった空間だった。血の臭いも冷たい鉄の感触も寒々とした殺気もない、彼がたったひとつ知っている場所だった。
そして、そこには彼女がいるはずだったから。彼が武器を持つことを烈火のごとく怒るただ一人の人。
目が覚めてしまったら、またやり場のない焦燥が胸を焼き付くすだろう。
今この一時だけ許してほしい。目を覚ましたら、また現実に戻る。君を取り戻すために血にまみれる。
髪になにかがふれる。ひどく優しくて、いつもの彼なら一瞬で飛び起きるが、これは夢だ。かまわない。
小さな小さな暖かいものが頬に近づくのをかんじた。それは極寒のなかようやくついた火種の頼りなさに似ていた。
離れていくのが惜しくて、うっすらと目を開ける。なにも見えなくてやはり夢だったかと思ったが違った。闇だと思ったものはさらさらと流れる艶やかな黒髪だった。
しばらくすると果実のようなものが視界にはいってきた。産毛が光を弾いていかにも気持ち良さそうで抗えずに彼は手を伸ばした。夢なのだから遠慮はいらない。
するとそれはビクッと震えて、実に美味そうな朱色に熟れたかと思うと、手からするりと逃げた。しかし、次の瞬間マシンガンもかくやの勢いでまくしたてはじめた。
「なっ!ちょっと起きてるならそういいなさいよ!びっびっくりするじゃない!大体なのなのよ!学校から帰ってくるなり、やる事やったら寝ちゃって!今何時だと思ってるの!やっと会えて、その、みんなの前で、あ、あんな事しちゃって、こんどこそ、アレな感じになるのかなって、期待したわけじゃないのよ!あくまでもちょっと思っただけよ!それなのに一人でぐーぐーぐーぐー!わかるわよ!大変だったのは。でもこんな時くらい空気読みなさいよ!あーそうよね、あんたに期待したあたしが間違ってたわ!」
一気に言うと肩で荒い息をする。
長い黒髪。先程触れそうになった頬は紅潮して、まっすぐな鳶色の瞳が自分を映している。
どうやら夢ではなかったようだ。目をしばたかせながら、無意識に先程中断したチェックを再開する。
名前━相良宗介
場所━マンションの一室
時刻━太陽と時計によると〇九〇〇時
そして彼女は…この開口一番の罵詈雑言。すこし痩せたようだが間違いない。
「…ち」
喉に張り付いてうまく声がでなかった。呆然としていると、彼女━━千鳥かなめはさらに容赦ない言葉を浴びせる。
「ちじゃねーわよ、ちじゃ!まだ寝ぼけてるわけ??延々18時間よ!寝すぎて脳が溶けてるんじゃないの??いくらなんでも寝過ぎよ!どーするのよ!昨日のご飯も朝ごはんももう作っちゃったわよ!
そもそも、寝るならベッドにしなさいよ!運べないでしょ」
宗介は寝ていたらしいソファからゆるゆると身を起こした。
まだ信じられない気持ちで、ビシっと指をつけつけて彼を糾弾するかなめの手をそっと握り寄せた。彼女は逆らわず膝をつき宗介と同じ目線に並ぶ。すこし上気した拗ねたような顔が間近に来た。
「な、なによ…」
頭が急速に覚醒する。
そうだ、自分は確かにメリダ島で彼女を救出した。そして沖縄の米軍基地から脱走して、陣代高校で彼女と。そして二人で彼女のマンションに帰ってきたのだった。
信じられないが一日近く眠りこけていたらしい。意識不明だったとき以外、覚えている限りはじめての経験だった。
握った手から暖かいものが流れ込んでくる。あの日、この場所で指からこぼれ落ちた温もりが、再びこの手の中にある。それは彼の右手から、腕を伝い、心臓に届いた。瞬間、空の器を満たすように全身の血が音を立てて巡りだしたのを感じる。全ての細胞が息を吹き返す。
そしてついに顔の中心にも到達した。今、声を出せば溢れてくるのは明白だった。しかし、耐えきれずに絞り出すようにその名を呼んだ。
「━━━千鳥」
何度呼びたいと願っただろう。何度触れたいと渇望しただろう。
右手を握りしめたまま、宗介はかなめの肩口に額を埋めた。
「…もぅ…先に泣いてるんじゃねーわよ…ばか」
かなめもまた震える声で、彼の頭に頬を寄せる。
━━おかえり、ソースケ
聞きたくて堪らなかった柔らかいアルトの声が小さく聞こえた。
━━ソースケが泣いている。
かなめはこの一年の彼の心と体に負った傷を思い胸を締め付けられる。
宗介は約束通り学校にかなめを連れ戻してくれた。しかし、その代わりにあまりにもたくさんの仲間、所属する組織、学校、父親、そのすべてを彼は失った。おそらく、彼女も知らない人々も。全てはかなめが迎えに来いといったから。
ごめん、ということも、ありがとうということもできない。あまりにも大きな代償。
昨日、あの大騒ぎのあと、みんなに囲まれながらも学校をでて二人でここに帰ってきた。しかし、余韻というものがゼロの宗介は、途中で一年前に用意しておいた個人的なセーフハウスから機材を山ほど運び出してきた。
マンションにつくなりその機材を使って、てきぱきと全くいつものようにトラップを仕掛け始め、それが終わると仲間に通信機で連絡を取り無事合流を伝えた。冷やかす声が聞こえたが、宗介は黙殺して通信を終了すると、やっとかなめに向き直った。
「ちょっと、なに勝手にトラップ仕込んでるのよ!」
呆気にとられて見ていたかなめは、我にかえってわめいた。
なんだこいつ、武器などいらないとかいって全然変わってないし!
宗介はゆらりと立ち上がって
「君はわかってない…甘い考えだと、いっ、た、は、はず…」
呂律がまわってない。目が座っている。ぐらりと体勢がゆれた。
「ちょっ、ちょっとソースケ!大丈…」
かなめが言い終わらないうちに、宗介はそのままソファに倒れんだ。あわてて駆け寄ると規則的な寝息をたてている。
こいつ━━━━━!
血管がぴくぴくしたが、必死で自分をなだめる。先程の通信から漏れ聞いたところによると不眠不休で駆けつけたようだった。すこし休ませた方がいいのだろう。きっとお腹も空いているはずだ。
この隙にご飯でも作っておくか。なにしろお金もないので銀行にもいかなければならない。
かなめは宗介に毛布をかけてから、制服のまま財布をつかんで買い物に出掛けたのだった。
そして帰ってきても果たして宗介は全く動かないまままだ寝ていた。
ご飯を作り終えても起きる気配もないので、少しつまらない気分でテレビなど見てみる。一年ぶりに見る日本の番組は知らない人でたくさんだ。しばらくみていたが、しらけた気分でテレビを消した。一人ではご飯を食べる気にもならない。
丁度夜の定時連絡の時間だったので、かなめが代理でやっておくことにした。昼の時に見ていたし、通信暗号などは今の彼女にとっては造作もなかった。
通信相手、メリッサ・マオはかなめが連絡してきたことに驚いたが、二人の再会と無事を祝ってきた。そして、宗介が眠りこけていると聞いて盛大に笑いだした。後ろの下品な笑い声はクルツ・ウェーバーに違いない。
「ソースケの後始末やらなんやらで、こちらの作業に三日はかかるわ。三日間は邪魔しないから。おしゃべりな邪魔物が届く前に、二人っきりを堪能してね。あっソースケに水筒調べとくように言っといて」
「なっなにいってるんですか!」
意味のわからないところもあったが、かなめは赤くなって反論する。邪魔もなにも微動だにせず寝ている相手とどうしろと言うのだ。もう一日終わるし!
通信を切って、幸せそうな寝顔の宗介を睨むと、ふと制服の上着が窮屈そうにみえた。寝づらそうなので脱がせることにする。流石に起きるだろうが、好都合だ。
左の腕を引っ張って脱がそうとするが、力の入ってない腕は重い。悪戦苦闘していると、宗介が身じろぎしてようやく半分抜けかかった腕を抜き、さっさと脱ぎ捨てて……また寝た。
こ、このヤロー!いい度胸じゃない
上着を片付けようと屈み込むと、おそらく学生シャツも随分小さくなっているのだろう、乱れたシャツの裾から肌が見えていて、あわてて目をそらそうとしたかなめは息をのんだ。
腹部の、おそらく銃によるであろう大きな傷が目に入ったからだ。
かなめは彼の上半身の裸を去年の夏に海で見たことがある。そのときはこんな傷はなかった。まだ癒えていない生々しい傷痕。左の傷は北朝鮮で自分をかばったときの傷だ。おそらくこれだけではない無数の傷が隠れているに違いない。
彼がここまでにたどり着くまでにどれ程の戦いがあったのだろう。なにしろテッサから宗介は死んだと、はっきりと聞かされていたのだ。核ミサイルまで打ち込まれて、まさか生きていると思う方が難しい。
そのあとの事も先ほどマオから簡単に聞いた。卒業式のために米軍から一人で脱出してきたこと。自分が知る以上に、彼は何度も傷つき、それでもかなめを迎えに来てくれたのだ。
この傷に自分は応えられる日がくるのだろうか。
━━━わざわざ制服まで着てばか律儀なんだから…
かなめは上着を抱き締め、逃げるように浴室に駆け込んだ。急いでシャワーの蛇口を全開にまわし、激しい飛沫を浴びてぎゅっとまぶたを閉じる。
━━━泣くな、泣くな!
泣く権利なんかない。簡単に涙を流していいはずない。
昼間、買い物にいったときの事を思い返す。スーパーの顔見知りの店員さんの幽霊でも見たかのようなこわばった顔、いつも笑いかけてくれた人が目をそらす。
この街を戦場にしたのは自分。情報規制が敷かれていても人の口に戸はたてられない。ましてや地元なら、まことしやかに噂が流れているに違いない。かなめとっては長い一年だったが、この街の人にとってはたった一年前の惨劇だ。
それでも帰ってくるのを望んだのは自分なのだから。
熱いお湯に打たれて無理やり気持ちを切り替える。パジャマに着替えてリビングに戻りソファの横に座り込んだ。
健やかな寝息が聞こえる。規則的なリズムに合わせて、かなめの心も次第に落ち着きを取り戻した。
こいつがこんなに眠りこけるなんて、よっぽど疲れているんだろう。
宗介は生きて帰ってきてくれた。そして、ずっとそばにいるといってくれた。もうそれだけで充分だ。
毛布をもう一枚持ってきてソファの横にうずくまる。こうして体温を感じられる幸せ。
あの頃は当たり前だったのに、今朝までは夢のようだった。起きたら消えてしまうのが怖くて、学生シャツの裾をそっと握る。
「おやすみ…明日は起きてよ」
小さく言ってかなめは目を閉じた。もう忘れかけていたほど久しぶりな穏やかな気持ちだった。
「って…ちょっといい加減にしなさいよ」
さすがにかなめは口許をひきつらせる。爽やかな朝、太陽は穏やかに照らし、朝御飯のいい香りがリビングを包んでいる。
「それなのにまだ寝てるってなんなの。起こしてもらうのはお姫様であって、あんたみたいな戦争ばかじゃないのよ!」
強気な口調とはうらはらに、なんとなく情けなくなってエプロン姿のまま宗介を覗きこんだ。
朝の光のなかで見る彼は、一年前よりがっしりしていて背も伸びている。
以前はごくたまに覗かせていたあどけなさは姿を消し、長いまつげが彫りの深い顔に影をおとしている。もともと黙っていれば端正と言われていた彼だが、前に見たときより精悍さが増して、ずっと、なんというか
━━━かっこいい。
ボサボサの頭もよく似合っている。そういえばこの髪を切ったこともあった。あの時も大変だった…
かなめの手は自然とのびて、ざんばらの髪をゆっくりとなぜる。野良犬の感触によくにていた。あの後、どうやって髪を切ったのだろう。やっぱりあのおっきいナイフかな。
シャープになった頬にはしる傷。この古傷がかなめの心を救ってくれた。
自分がほしいのはこの相良宗介なのだと、なにもかも失っても彼の記憶を喪いたくないと、そう思うことがかなめをこの世界に戻してくれたのだ。
長い指でそっと傷をなでると、愛しさが込み上げてきた。
起きるかな…起きないよね…あと少しだけ…
恐る恐る顔を近づける。唇でそっと傷に触れると、頬になにかがかすった。
慌てて体を離すと、宗介がうっすら目を開けてこちらをみている。恥ずかしさの極みで、かなめの頬に血がのぼる。
「なっ!ちょっと起きてるならそういいなさいよ!びっびっくりするじゃない!大体なのなのよ!学校から帰ってくるなり、やる事やったら寝ちゃって!今何時だと思ってるの!やっと会えて、その、みんなの前で、あ、あんな事しちゃって、こんどこそ、アレな感じになるのかなって、期待したわけじゃないのよ!あくまでもちょっと思っただけよ!それなのに一人でぐーぐーぐーぐー!わかるわよ!大変だったのは。でもこんな時くらい空気読みなさいよ!あーそうよね、あんたに期待したあたしが間違ってたわ!」
ああ、なんで自分の口はこうなんだろう。なにも変わってないのは自分だ。
かなめは絶望的な気分になる。やっと起きたのに。昨日の素直なあたしはどこにいったの?
宗介はそんな葛藤は露知らず目をぱちくりして、口のなかで彼女の名を呟いた。
さらに悪態の止まらない彼女をよそに、手が伸びてきてかなめの手をとる。
磁石のように引き寄せられ、心臓が高鳴り早鐘を打ち始めた。
宗介の大きな手のひらは、使い込まれ固い。指は長く節くれていた。
この手をつないだ遠い日のことが胸をよぎる。
かなめは込み上げてくる感情を押さえ込むように顔に不自然に力をいれる。だめだ、泣くんじゃない。決めていたはず、笑って、ちゃんと
「━━━千鳥」
その声は震えて、固い髪の毛が頬をくすぐる。彼の臭い。火薬と硝煙と汗の臭い。
反則だ、そっちから泣くなんて。昨日は憎らしいほどいつもと同じだったのになんなのよ。
かなめの目に堪えきれず、涙が滲む。強がりも意地も、もうどうでもいい。
「…もぅ…先に泣いてるんじゃねーわよ…ばか」
本当に言いたかった言葉が、ようやく素直じゃない口からこぼれた。
「…おかえり、ソースケ」
ただいま、とくぐもった声が応えた。それは彼の人生で初めての言葉だとかなめは知っていた。
ややあって、宗介ははっとして顔をあげた。
「しまった!定時連絡が」
やはりムードやら流れなど、全く期待できない奴なのだった。かなめは呆れて涙も引っ込む。
「あんたがすかすか寝てる間にあたしがしといたわよ。マオさんがあんたの尻拭いに三日くらいかかるから待機って。あっもう二日だけどー」
すまん、と宗介はばつが悪そうだ。不可視の耳と尻尾がしょぼんとたれさがっている。
それをみてかなめは思わず吹き出した。
「あっはは、あんたってば昨日のことで朴念仁も卒業かと思ったらちっとも変わらないのね」
む、と宗介は赤くなってそっぽを向いた。
「約束だ。そのあと…寝てしまったのは悪かった」
「もういーわよ。でもご飯は全部食べてよね」
宗介は力強くうなずく。
「了解した。問題ない。可及的すみやかに行う」
さっぱりした顔を見て、かなめは微笑んだ。彼があんなに眠ったのはひょっとしたら、物心ついて以来なのかもしれない。我慢した甲斐があった。
「なにを、ち、千鳥?」
うろたえた声の宗介に、かなめは我に返る。いつの間にか両手で彼の顔を挟んでまじまじとみつめていたらしい。
宗介は状況に対処できず、赤い顔で視線を一生懸命そらそうとしている。
ん?こいつ、寝てそっちまでリセットされたのか?
ははん、とかなめは得心した。
昨日のあれは、言葉や気持ちは真実に違いないだろうが、彼にとっては約束の遂行と言う大義名分と勢いに乗っかったのもあったのかもしれない。そういえば、以前も任務や護衛やらの大義名分があればどんな勝手なことも平気な顔してやっていた。
━━━つまり自分からする分には平気だけど、ってことか。
彼がこういう顔を見せるのは自分だけで、かなめは嬉しくてたまらない。
むくむくと生徒会副会長だったころのお姉さんグセが頭を持たれてきた。このモードになるとかなめは傍若無人に振る舞えるのだった。
「お腹の傷、なんなのよ」
静かな低い声に、条件反射で宗介の背中に脂汗が流れ始める。後ろ暗いことなどないというのに。
「も、問題ない。もう治っている」
「うそいいなさいよ、どうみても大怪我よ」
かなめの顔がさらに近づく。
「まて、早まるな千鳥。本当だ。多少食事制限がついたくらいだ」
かなめの目がくわっと見開かれた。
「食事制限〜!」
汗をだらだらと流しながら、あわてて宗介は弁解を開始した。効果があったことはほとんどないのだが。
「ち、ちがう。大したことはないのだ。酒と塩分を控えろと言われたくらいで、本当に問題ない」
「問題ないですって」
座った目の顔がまた近づいて、ほとんど鼻と鼻がくっつく寸前だ。後頭部をがっしり捕らえられていてはエリート傭兵も逃げ場がない。
「ななななぜ怒っているのだ」
「う、る、さ、い」
かなめは問答無用で、文句を言う悪い口を桜色の唇でふさいだ。
「…!」
宗介はフリーズした。お返しだ。昨日のあたしの純情を返せ。
「何が問題ないよ!誰がこれから先あんたのご飯作るってのよ。そう言うことは最初に言いなさい!もう作っちゃったじゃないの!みんなの前であんなことして、もうお嫁にいけないんだから。責任取ってもらうんだからね」
堰を切った涙がとめどなく溢れてくる。ようやく硬直がとけた宗介は、無器用にかなめの頬をぬぐった。濡れた指が唇をかする。
「無論だ、心配ない」
決意のこもった声で応えたかと思うと、小さなためらいの後少し頼りない瞳になってかなめを伺った。
「千鳥…もう一度君にキスする許可をもらえるか?」
かなめは泣き笑いになる。愚直なまでに誠実なこの男はまだ許可がいると思っている。
ずっと昔に軽口まじりに言ったことなのに、彼にとってかなめの言葉は一つ一つが宝物に等しいのだ。
「ほんとにばか…さっさと抱きしめてキスしなさい 」
宗介は言われた通りにした。
これからも平穏な日々は遠いだろう。ここにはもう住めないだろうし、また狙われるかもしれない。ミスリルはなくなり宗介の後ろ楯はなくなった。
だが、もう恐れない。死者の囁きも生者からの謗りも。この歪んだ世界で二人で生きると、もう決めたのだ。